夕やけに染まる里山で、今日も大地と試行錯誤しながら育む花々
神奈川県川崎市麻生区。都心から電車で約50分とは思えないほど、静かな里山の記憶が息づく土地に、吉垣花園はあります。
農地は区画された“花畑”ではなく、山そのものが花の庭。そのてっぺんから眺める夕やけがとびきり美しいことから、吉垣さんファミリーは“夕やけ山”と呼んでいるそうです。
昭和五年の創業から九十年以上。吉垣花園は、ずっと花とともに、この山に根付いて生きてきました。今回お話しを伺ったのは、三代目・吉垣 和也さん。
吉垣さんが無農薬栽培を始めたのは十年前から。子どもたちや次の世代が安心して触れられる花を育てたい。そう思うようになり、農薬や化学肥料に頼らない栽培へと舵を切ります。
当時、無農薬の花農家はほとんど存在せず、栽培方法も正解もない状態。それでも、命への思いが吉垣さんの背中を押しました。

「答え」のない、
終わりのない試行錯誤
無農薬栽培を始めた最初の三年間は、収入が半分近くまで落ち込み、続けられたこと自体が驚きだったといいます。
年月を経て少しずつ土は豊かになり、植物本来の力が発揮されるようになってきましたが、現在もなお「完成」や「正解」があるわけではありません。 今この瞬間も、虫に食べられたり、連作障害に頭を悩ませたりする日々は続いています。 それでも、土の声を聞き、微生物や山の循環に身を委ねながら、一歩ずつ試行錯誤を重ねる。その泥臭くも誠実な歩みそのものが、吉垣花園の美しさの正体です。

山まるごとが、季節の花の舞台になる
吉垣花園の特徴は、大量生産をしないこと。ひとつの品目を広く植えるのではなく、山のあちこちに少しずつ、たくさんの種類を植えるのが吉垣さんのやり方です。いろんな品目があることで土壌が整うんだそう。
そのため、季節が移ろうたびに、 “山中のどこかで花が咲いている”という風景が生まれます。
ハウスは使わず、露地のみ。「太陽、風、雨、月、気温」自然のリズムが花の成長を決めていきます。
「自然の中で育つ花同士は、不思議とどんな組み合わせでも調和する。同じ土地に育つものは、どれを束ねても美しいと思っています」

循環をつくる暮らしと農業
吉垣花園の日常には、“捨てる”という概念がほとんどありません。
剪定した枝は四十センチに切って薪として積む
葉や落ち葉は堆肥にして畑に戻す
こぼれ種は山肌を彩る
ヤギは草を食べて土を耕し、やがてその糞がまた肥料となる。
「ヤギも嬉しいし、うちも嬉しいんです。草刈り機の燃料もいらない。ただそこにいるだけで、山が少しずつ豊かになるんですよ」
水路を整え、微生物を育て、山の呼吸が戻っていくのを見守る。
そのすべてが小さな循環となり、 大地そのものが再生していくプロセスになっています。

花をつくるのではなく、“育つ環境を整える”ということ
吉垣花園の花づくりには、一貫した哲学があります。
それは「花をつくるのではなく、花が育つ環境を整えること」。
自然のリズムに合わせて生きることが、人の暮らしを整えていく。 その考えを伝えるために、農園では親子イベントや自然体験の機会もつくっています。
吉垣花園が育てるのは、単に“無農薬の花”ではありません。 花、土、微生物、山、動物、人間……。 あらゆるものが調和しながら巡っていく、大きな循環の風景。 ここには、Regenerative Flowers がめざす世界が、そのまま息づいています。

吉垣花園
所在地:神奈川県川崎市麻生区
主な花:コスモス、ジニア、ニゲラ、帆掛草、ひまわり、季節の草花、季節の枝物
栽培方法:無農薬栽培
(栽培期間中 農薬・化学肥料不使用)
公式サイト:https://yoshigakihanaen.farm/contents_2.html
農園撮影日:2025.11